ヤコブセンがデザインしたリゾートプロジェクト、「コペンハーゲン 」近郊「ベルビュー・ビーチ(Bellevue beach)」

ヤコブセンがデザインしたリゾートプロジェクト、「コペンハーゲン 」近郊「ベルビュー・ビーチ(Bellevue beach)」

デンマーク・コペンハーゲン生まれの建築家、アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)。「アントチェア」「スワンチェア」などプロダクトデザインが有名なヤコブセンだが、彼が晩年まで過ごしたコペンハーゲン近郊の街、クランペンボー(Klampenborg)には、彼が初期に手掛けた建築物が現存している。今回はデンマークのリゾート地「ベルビュー・ビーチ(Bellevue beach)」におけるヤコブセンがデザインした建築物を中心に紹介する。

 

 

■アルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen 1902-1971)

1902年2月11日、デンマーク、コペンハーゲン生まれ。当初は画家になりたかったヤコブセンだが、両親の反対もあり、寄宿舎時代からの友人で建築家のフレミング・ラッセン(Flemming Lassen)に勧められ、1924年にデンマーク王立芸術アカデミーに入学し建築を学ぶ。在学時代1925年にはパリのアールデコフェアに椅子を出展しシルバー賞を受賞。大学卒業後しばらく建築家パウル・ホルセー(Poul Holsøe)の事務所で働き、1929年にフレミング・ラッセンと共にデンマーク建築家協会のコンペで「未来の家」(House of Future)を発表し、その作品が高く評価される。1929年には自分の事務所を設立。同年、コペンハーゲンの少し北の高級住宅地シャルロッテンルン(Godtfred Rodesvej 2, Charlottenlund)に自宅をデザイン・建設する。1930年には、コペンハーゲンの北「ベルビュー・ビーチ」におけるリゾート型複合住宅を建設するコンペを勝ち取り「ベラヴィスタ集合住宅」(1934)やレストラン、シアターなども含んだ大規模リゾート計画を手掛けた。

第二次世界大戦が始まり、デンマークがナチスに占領されると、ヤコブセンはスウェーデンへ亡命し、主に壁紙やテキスタイルなどをデザインしていた。
1945年、戦争が終わりデンマークへ戻ってから「スーホルム集合住宅」(1950)をはじめとした建築デザインのほか、デンマークの家具メーカー「フリッツハンセン社」とともに家具のデザインを開始し「アントチェア」(1952)、「セブンチェア」(1955)、「スワンチェア」(1958)、「エッグチェア」(1958)などヤコブセンを代表する椅子のデザインを発表している。
ヤコブセンは建築物に合わせ、インテリアまでトータルにデザインをするのが特徴で、彼がデザインした有名な家具や時計などは、彼がデザインした建築物に合うようにデザインされ発表されている。
なかでも有名なのはデンマーク初の高層ビルで、世界初といわれているデザイナーズホテル「SASロイヤルホテル(現 Royal Radisson Collection Hotel Copenhagen)」(1958 – 1960年竣工)。高さ76.5m、地上22階建ての当時のモダンデザインを象徴するこのホテルに合わせてデザインされたのが「スワンチェア」と「エッグチェア」である。ヤコブセンはこのホテルでは建物の設計からインテリアデザイン、照明やドアノブ、食器類などの細部までをトータルにデザインしている。

このホテルは、ロビーと606号室のみがヤコブセン当時のデザインを残していたが、2018年4月にデンマークのデザインチームSpace Copenhagen によってリノベーションされ、ロビーは、ヤコブセンのテイストを残しつつも色やレイアウトなどは大きく現代風にリニューアルされた。唯一606号室だけ当時のまま現存されている。
同じように、1964年にデザインしたイギリスのオックスフォード大学セント・キャサリン・カレッジでは、インテリアや椅子、照明などに限らず、ランドスケープまでトータルにデザインをし、ヤコブセンの代表作になっている。「オックスフォードチェア」はこの大学の教授用のチェアとしてデザインされた椅子である。
コペンハーゲンには「SASロイヤルホテル」以外にも彼がデザインした建築物がたくさんあるが、1971年に着工した「デンマーク国立銀行」が彼の遺作となってしまった。

 

 

 

■コペンハーゲン、クランペンボーへの行き方

日本からは、スカンジナビア航空の直行便が出ている。2020年3月からは羽田からの運行も開始。成田空港からデンマーク、コペンハーゲン・カストラップ空港(Københavns Lufthavn, Kastrup)までは約11時間30分。北欧らしく木が多用されている空港はデンマークの建築家ヴィルヘルム・ローリッツェン(Vilhelm Lauritzen)によるデザイン。空港からコペンハーゲン市街地までは約8キロと近く、電車や地下鉄で約15分程度。

空港からコペンハーゲン中央駅(København H) までの交通手段は、デンマーク国鉄(DSB)、地下鉄、バス、タクシーの4つの方法がある。タクシーをのぞいてゾーン均一料金なので、同じ料金で時間がかかるバスを避けた電車や地下鉄がおすすめ。中央駅に行く場合は2番乗り場で電車に乗り、3番目の駅で降車。1番乗り場の電車に乗ってしまうと隣の国スウェーデンに行ってしまうのと、地下鉄は中央駅には行かないので注意が必要。タクシーはメーター制なので、安心して乗れるようだ。コペンハーゲン中央駅に着くとすぐ目の前には「SASロイヤルホテル(現 Royal Radisson Collection Hotel Copenhagen)」を見ることができる。

2020年1月時点でのデンマーククローネ(DKK)は約16.08円。デンマークは物価が高く、日本の約1.5倍から2倍程度。ランチが2000円くらいが相場になっている。

目的地のクランペンボーへは、コペンハーゲン中央駅から郊外電車Regional(レジオナル)のヘルシンオア(Helsingør)行きに乗り約20分、もしくはS-tog(エストー)Cラインでクランペンボー行きに乗って約30分。

クランペンボー駅に着くと、東側にはバス停があり、右側にはヤコブセンがデザインした白い「ベルビューシアター(Bellevue Theatre)」や「ベラヴィスタ集合住宅(Bellavista housing estate )」が見える。駅を抜けて、少し北のT字路を右に曲がると、そこにもヤコブセンがデザインした曲線の屋根が特徴の「マットソン乗馬クラブ ( Mattsson’s riding stable )」がある。さらに右へ曲がって道なりに歩くと、すぐそこが目的地のベルビュー・ビーチだ。

目の前に広がる、白と水色のストライプが特徴のビーチバレーのネット、監視塔、更衣室、道路沿いには白い「ベルビューシアター」や「ベラヴィスタ集合住宅」、さらにその少し南側にはレンガ色の「スーホルム集合住宅」が見える。ヤコブセンのデザインを堪能できる風景がそこにある。また、この海岸沿いを南に30分くらい歩いたクランペンボーの隣街スコウスホーズ(Skovshoved)にもヤコブセンがデザインした「旧テキサコサービスステーション(Texaco Service Station)」がある。このエリアはまさにヤコブセンのデザインを堪能できる場所だ。

このクランペンボー駅周辺には、毎年世界サンタクロース会議が開催され、世界で最も古い遊園地といわれている「デュアハウスバッケン(Dyrehavesbakken)」や、ヤコブセンと友好があった建築家・家具デザイナーのフィン・ユール(Finn Juhl)の家が展示されている「オードロップゴー美術館(Ordrupgaard Museum)」もある。ザハ・ハディットがデザインした「オードロップゴー美術館」新館も人気。

また、クランペンボー駅から電車で北に10分くらいの街フムレベック(Humlebaek)には、世界で最も美しい美術館といわれる「ルイジアナ現代美術館 (Louisiana Museum for Moderne Kunst)」もあり、そちらも時間があればおすすめ。

 

 

 

■ベルビュービーチ / 監視塔  1932 –
ヤコブセン初期を代表するリゾートプロジェクト。更衣室、監視塔、看板、ビーチバレーのネット、シアター、レストラン、集合住宅までビーチ全体がヤコブセンによってトータルにデザインされている。ビーチを象徴する監視塔はビーチのアイデンティティでもある水色と白のストライプが美しい。現在レストランは休業しているようだが、シアターでは様々な上演が行われており、90年以上前のデザインが現在でも美しく機能している。

 

 

■スーホルム集合住宅 1950 –
ベルビュービーチ開発から20年後の1950年、「ベラヴィスタ集合住宅」の隣に建設された集合住宅。ベルビュービーチ全体は白色が特徴なのに対して、こちらはレンガ造りの落ち着いた印象。3期にわけて建設され、1期が5戸、2期が9戸、3期が4戸、合計18戸の集合住宅になる。最初に建設された5戸のうち、一番海側の家をヤコブセンは自宅兼スタジオとして晩年まで住んでいた。

 

 

■旧テキサコサービスステーション (現在Olivers Garage)1937
ヤコブセンがデザインしたフォルムが特徴的なガソリンスタンド。建設時はテキサコが運営するガソリンステーションだったが、現在店内はOlivers Garageというアイスクリーム屋に

 

 

 

■イラスト以外で、クランペンボー・スコウスホーズにある主なヤコブセン建築物

ローテンボー邸 ( Private home for Rothenborg 1930)
マットソン乗馬クラブ ( Mattsson’s riding stable 1931)
ベルビュービーチ/ 売店、更衣室、テント、監視塔
(Bellevue Beach : kiosks, changing cabins, tents, towers for life guards 1932)
ベラヴィスタ集合住宅 (Bellavista housing estate 1934)
ベルビューシアター・ベルビューレストラン(Bellevue Theatre / Bellevue Restaurant 1936)
旧テキサコサービスステーション(Texaco Service Station 1937)
スーホルム集合住宅Ⅰ(Søholm Row Houses Ⅰ 1950)
スーホルム集合住宅 II (Søholm Row Houses II 1952)
スーホルム集合住宅 III (Søholm Row Houses III 1954)