映画監督、エリック・ロメールとフランスの「ville nouvelle』(新都市)

映画監督、エリック・ロメールとフランスの「ville nouvelle』(新都市)

エリック・ロメールが監督した映画『満月の夜』(1984)の舞台、パリ郊外のマルヌ=ラ=ヴァレ。当時パリ郊外は「ville nouvelle』(新都市)開発として、新しい集合住宅やアパートメントがいくつも建設された。「マルヌ=ラ=ヴァレ(Marne-la-Vallée)」もそのひとつ。

 

映画監督、エリック・ロメールとフランスの「ville nouvelle』(新都市)

パリ近郊における「新都市計画」として、1965年にエブリィ(Evry), セルジー=ポントワーズ(Cergy-Pontoise)、マルヌ=ラ=ヴァレ(Marne-la-Vallée)、サン=カンタン=アン=イヴリーヌ (Saint-Quentin-en-Yvelines)、ムラン・セナール(Melun Sénart)の5つの都市が決定され、70年代から政府によって開発が始まった。「RER」(高速郊外鉄道/エール・ウー・エール)を利用して、パリ市内からアクセスがしやすい、また、企業を誘致しやすいなど、未来にむけての新都市構想として選ばれた郊外都市である。
映画監督エリック・ロメールはこの計画に興味を持ち、1975年に「ville nouvelle』(新都市)というタイトルのテレビ番組を4本撮影している。その後映画『満月の夜』ではマルヌ=ラ=ヴァレ、そして『友達の恋人』ではセルジー・ポントワーズをロケ地として撮影をしている。どちらの都市も、芝生がまだ生え揃っていなかったり、公園が整備されていなかったりなど、開発が始まったばかりだが、当時の最新の建築物や、フランス郊外の新都市の新しい街並みなど、私たち日本人が見たことのない、フランスパリ郊外の新しい景色を映画の中で見せてくれた。

 

 

マルヌ=ラ=ヴァレ(Marne-la-Vallée)

パリから東へ約30キロほどのニュータウン。エリアの中心を東西にRER A4線が伸びている。RER A4線の終点駅のディズニーランド・パリもマルヌ=ラ=ヴァレのエリアにある。映画『満月の夜』で主人公ルイーズの住んでいたアパートはRER A4線、ローニュ駅(Lognes)のすぐ近く。

 

 

イラスト:映画「満月の夜」で主人公ルイーズが住んでいたアパート

9 Cours des Lacs, 77185 Lognes, France
最寄り駅:ローニュ駅
リヨン駅からローニュ駅までRER A4、「Marne la Vallée Chessy 」駅行き(ディズニーランド・パリ)に乗って約25分。改札を出て、池と墓地の間の道をまっすぐいった突き当たりに映画で主人公が住んでいたアパートがある。映画のなかではまだ工事中だった駅前は現在はきれいに整備され、印象的だったアパートの青色の窓枠は現在は白く塗られている。エントランスに生垣が植えられており、映画当時の風景とは少し変わってはいるが、映画を見たことある人であれば、オープニングとエンディングで使われたこのアパートがすぐにわかるはず。

 

 

エリック・ロメールとシネヴィヴァン六本木

エリック・ロメールの映画が日本で初めて公開されたのは、1985年有楽町スバル座で上映された『海辺のポーリーヌ』。その後『満月の夜』からエリック・ロメール作品を単館上映したのは1999年に閉館してしまったシネヴィヴァン六本木だった。エリック・ロメールの映画をグループ会社のシネセゾンが配給していたということもあり、1999年閉館までに合計18作品(短編オムニバス映画『パリところどころ』含む)のエリック・ロメール監督映画を上映している。(注:『モード家の一夜』のみが旧ユーロスペースで公開)。

ヨーロッパ映画を中心に上映するミニシアターとして1983年11月に開館したシネヴィヴァン六本木は、エリック・ロメール以外にも、ジャン=リュック・ゴダール、アンドレイ・タルコフスキー 、ダニエル・シュミット、ビクトル・エリセ 、アキ・カウリスマキなどヨーロッパを中心とした個性的な監督作品を上映して人気の映画館だった。なかでもエリック・ロメールの作品には力を入れていたようで、1987年〜1988年に公開された『満月の夜』(1984・日本公開1987年1月)『緑の光線』(1985・日本公開1987年4月)。『友達の恋人』(1986・日本公開1988年7月)の3作品はエリック・ロメール人気に火をつけ、エリック・ロメールといえばシネヴィヴァン六本木というほどにもなった。

その後もファンはエリック・ロメールの新作を見るためにこの映画館に足繁く通った。当時まだ珍しい定員入れ替え制で、大きな海外版のおしゃれなオリジナルポスターが館内に貼ってあったり、カウンターでコーヒーやドリンクを飲みながら映画の上映まで待っていたのが懐かしい。特集も面白かったが、『パーマネントバケーション』(ジム・ジャームッシュ監督)『今宵かぎりは…」』(ダニエル・シュミット監督)『ナック』(リチャード・レスター監督)『ムッシュー』(ジャン・フィリップ・トゥーサン監督)といったレイトショーには場所柄、当時のオシャレな人たちが夜な夜な集まりとても人気の映画館だった。

 

■イラスト:左から 映画パンフレット『海辺のポーリーヌ』(1985年6月15日発行 フランス映画社)、『緑の光線』1987年4月25日発行(1987年4月25日発行 シネセゾン)、『友だちの恋人』(1988年7月9日発行 シネセゾン)、『満月の夜』(1987年1月17日発行 シネセゾン)。シネヴィアン六本木の映画パンフレットには貴重な全シナリオが収録されている。DVD『緑の光線』『満月の夜』『友だちの恋人』(紀伊国屋書店)。雑誌『ユリイカ』2002年11月号 特集エリック・ロメール(青土社)、『WAVE』35号 特集エリック・ロメール (1992年 ペヨトル工房) 。日本の出版物でエリック・ロメールに関する単独の書籍は出版されていないようだが、過去にエリック・ロメールを特集している貴重な雑誌2冊。