イギリス、『マンチェスター』でピーター・サヴィルが手掛けたデザインを訪ねる

イギリス、『マンチェスター』でピーター・サヴィルが手掛けたデザインを訪ねる

 

マンチェスターと聞いて最初に思い浮かべるのが、サッカーチームのマンチェスター・ユナイテッドなのか、あるいはファクトリーレコードを代表とする音楽ムーブメントカルチャーなのか。いずれにしても70年代後半から90年代初頭にかけてマンチェスターという街が世界中の音楽とデザインシーンに大きな影響を与えたことは間違いない。なかでもマンチェスター生まれのグラフィックデザイナー、ピーター・サヴィル(Peter Saville)はマンチェスターのクリエイティブシーンを象徴する人物であり、2004年から約10年間マンチェスター市のクリエイティブディレクターを担当していたのも記憶に新しい。今回はそんなマンチェスターでピーター・サヴィルが手掛けた作品・仕事をいくつか紹介する。

グラフィックデザインの巨匠といわれるピーター・サヴィル。彼の最も有名な作品Joy Divisionの『アンノウン・プレジャーズ(79年)』は今年でリリース40周年を迎え、その40周年を記念した限定アナログレコードが発売されたばかり。また、2017年にはカルバン・クラインのロゴのリニューアル、2018年にはバーバリーのクリエイティブ・ディレクターになったリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)とバーバリーのロゴとモノグラムをデザイン、つい先日フィレンツェで開催されたSalvatore Ferragamoの2020SSのファッションショーではモデルに混じってモデルとして初デビューするなど、ファッションや音楽業界を中心に、その活躍ぶりはますます注目されている。

ロンドンのスタジオでピーターにインタビューをした時のことを今でもよく覚えている。私のすぐ横に座り、タバコを吸いながら、彼はゆっくりと言葉を選んで話してくれた。インタビューの途中、彼は鉛筆を手にすると、メモ用紙にいくつかのキーワードを書き始めた。それは私に見せるためでなく、自分の言葉を書くことによって整理、再確認するかのようだった。彼はコンピュータでデザインをしない。シンプルなデスクの上にはメモ用紙と鉛筆などの筆記用具類、消しゴム、煙草の箱と灰皿、そしてガラスの花瓶には一輪のオレンジの花。その整理整頓された白いテーブルは、まさに彼のデザインスタイルを象徴しているようにも感じた。シンプルな白い部屋、白い机、鉛筆、メモ、そして一輪の花。ほんの短い時間にもかかわらず、ピーター・サヴィルのデザインが生まれる場所を彼と共有できたのがとても嬉しかった。

 

 

ピーターサヴィルに関する書籍とDVD(イラスト右上から)

『Designed by Peter Saville』freieze / 2003
2003年5月23日から9月14日までロンドンのデザインミュージアムで開催された展覧会『The Peter Saville Show』にあわせて出版されたピーター・サヴィルの作品集。2005 年にスイスのMigros Museumで開催された展覧会と同タイトルの『Peter Saville Estate1-127』(JRP|Ringier/2008)という作品集もある。

『JOY DIVISION / UNKNOWN PLEASURES』 1979
もはやファッションアイコンにもなっているJoy DIivisionのジャケット。このジャケットのオリジナルは天文学辞典「Cambridge Encyclopaedia of Astronomy」のダイアグラム。こぎつね座にある中性子星CP1919から発信されているパルサー(波動)をダイアグラム化したものをJoy Divisionのメンバーのスティーヴン・モリスが図書館で見つけてきて、それをピーター・サヴィルがジャケットのデザインに使用したもの。オリジナルを白黒反転させているが天文学辞典に掲載されているダイアグラムがほぼそのまま引用されている。オリジナルの天文学辞典は、『Peter Saville Estate 1-127』に掲載されているので、興味ある人はそちらを参考に。クレジットはピーターだけではなく、Designed by Joy Division, Peter Savilleと表記されている。

『24 HOUR PARTY PEOPLE』DVD 2002 /メディアファクトリー
ファクトリーレコード設立者であるトニー・ウィルソン(本名Anthony Howard Wilson)を中心にマンチェスターがマッドチェスターとなる時代を映像化したもの。ファクトリーレコードをはじめJoy Division、NewOrder、Happy Mondays、伝説のクラブ「ハシエンダ」など70 年代終わりから92年にファクトリーレコードが解散するまでのマンチェスターにおける音楽ムーブメントやファクトリーレコードのことがよくわかる

『SHADOWPLAYERS』DVD 2006 / ナウオンメディア
『24 HOUR PARTY PEOPLE』は事実を元にした映画だが、この『SHADOWPLAYERS』はトニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、ピーター・フック(Joy Divison/元New Order)、ハワード・ディヴォード(Buzzcocks/magazine)などファクトリーレコードに関わっていた関係者やミュージシャンが自らの言葉で当時を語る貴重なドキュメンタリー映像。

 

■ マンチェスターについて
イギリス、イングランドの北西部に位置するグレーターマンチェスター州の州都。Manchester City Councilの最新データによれば、2014年の人口は520,200人、面積は11,564ヘクタール、平均週収入は392ポンド。産業革命とともに発達し、倉庫や運河など街中には当時の面影が残っている。1980年代後半から1990年代前半にかけては、マッドチェスターと呼ばれるムーブメントの中心として話題になる。マンチェスターならではの有名な観光ツアーとしては、The Stone Roses、Oasis、The Smith、Joy Divisionなど自分の好きなミュージシャンを選び、そのゆかりの場所を訪ねることができるManchester Music Tourもある。

■ 日本からマンチェスターへの行き方
日本からマンチェスターへの直行便は出ていない。ロンドンのヒースロー空港あるいはパリ、アムステルダムなどのヨーロッパの国々を経由してマンチェスター国際空港まで乗り入れるか、ロンドンから電車でマンチェスターの主要駅Manchester Piccadilly まで行く方法がある。日本からロンドンまではブリティッシュ・エアウェイズなどの直行便を使った場合で約12時間から13時間、ヒースロー空港からマンチェスター国際空港へは約1時間。空港から市街地までは電車で15分くらいで行くことができる。

電車でロンドンからマンチェスターに行く場合には、London Euston (EUS)駅から Manchester Piccadilly(MAN)まで乗車時間は約2時間10分から2時間30分程度。10分あるいは20分間隔で電車が出ている。金額は166ポンド(オフピーク割引では81.40ポンドあるいは89.30ポンド)。

■ マンチェスターでの移動手段
マンチェスターの主要交通機関は電車、バス、トラムがある。市街はそんなに広くないので、歩いて移動することも可能。今回紹介する場所はどこも500メートルから800メートルくらいしか離れていないので、郊外のサザン墓地をのぞいて歩くことができる。歩くのが苦手な人は市街地であれば色分けされた3種類の無料シャトルバス(Metroshuttle)があり、6分から10分間隔で出ているのでそちらを利用することもできる。また有料バスやトラムなどに1日乗り放題の観光用チケットDay Saverもあるので、バスやトラムなどをよく利用する人はそちらがお得。バスは自分が乗りたいシャトルバスがきたらわかるよう手をあげて合図をすればドアをあけてくれる。降りる時は日本と同じで停車駅の前にボタンを押す。

 

 

FAC 251 THE FACTORY
112-118 Princess Street, Manchester

元ファクトリーレコードの本社(ファクトリーのカタログ番号FAC 251)。同じ建物が現在は当時の本社のカタログ番号を名前にした「FAC 251 THE FACTORY」というクラブになっている。New Orderのベーシストだったピーター・フックが共同経営者として2010年にオープンさせたクラブで、インテリアデザインはかつてのファクトリー本社オフィスやハシエンダも手掛けたベン・ケリーが担当。ファクトリーの本社ができたのは1990年、その2年後の1992年にファクトリーは解散しているので、この建物が本社として機能していたのはわずか約2年になる。それ以前のファクトリー本社はマンチェスター郊外にあった共同経営者アラン・エラスムスの自宅アパートだった。

 

 

Museum of Science and Industry
Liverpool Rd, Castlefield, Manchester

2013年、マンチェスターの建築デザイン事務所Walker Simpson Architectsとピーター・サヴィルがコラボレーションしてデザインしたMuseum of Science and Industry(科学産業博物館)のエントランスゲート。黒い枠の中のガラスにはマンチェスターを流れる3つの川を象徴するように3本のストライプが入っており、ピーター・サヴィルらしく力強く美しい。Museum of Science and Industryは、1830年に建てられた世界で最も古い駅舎跡に造られた博物館でマンチェスターにおける観光スポットにもなっている。ピーター・サヴィルのデザインや建物を見るだけではなく、蒸気機関、水力機関といった産業革命時の機械も展示されている。かつてクラブ「ハシエンダ」があったThe Haçienda Apartmentsから約450メートルの場所にある。

 

 

Manchester Visitor Information Centre
1 Piccadilly Gardens, Manchester

ピーター・サヴィルがマンチェスターのスローガンとして提唱した「オリジナルモダン」にあわせて、マンチェスター市のアイデンティティを5色のカラーを使いロゴ「M」をリデザインした。そのデザインを使ったオブジェがManchester Visitor Information Centreで見ることができる。マンチェスターに関するいろいろな資料や情報があるので、マンチェスターに行ったら最初に訪ねてみたほうがいいかも。

 

 

Southern Cemetery

Chorlton-Cum-Hardy
Metropolitan Borough of Mancheste
Greater Manchester Plot: Plot B/Grave 118

2007年に亡くなったファクトリーレコードの創立者、トニーウイルソンの墓石。シンプルな黒いモノリスが美しい。ピーター・サヴィル、ベン・ケリー、ポール・バーンズ、マット・ロバートソンなどファクトリーの関係者たちがデザインをした。シンプルな書体で「Anthony H Wilson Broadcaster Cultural Catalyst 1950-2007」と白く文字が刻まれ、下のほうにマンチェスターで19世紀に活躍した作家、イザベラ・ヴァーリー・バンクスの小説『マンチェスターマン』の一部が刻まれている。タイポグラフィはマット・ロバートソンが担当。死んでから3年後の2010年に作られたのが、まさにピーター・サヴィルらしい。広い墓地なので探しにくいかもしれないが、Piccadilly Gardens 乗り場Nからバスで40分くらい。111番のバスSouthern Cemetery行きにに乗り終点Southern Cemeteryで下車、Barlow Moor Roadを歩いて墓地のオフィス横の入り口から入り、そのままつきロータリーのようなセンターまで歩き、その真ん中を左に曲がったPlot B/Grave 118にある。棺にはファクトリーの最終カタログ番号FAC501が刻まれているらしい。